農業での作業効率化や担い手不足を解消するためにドローンや自動操舵や各種センサーなど様々な最新技術が活用、発表されております。
そのようなトレンドがあるので、農薬散布ドローンやセンシングなどの分野に新規に参入したいという方も多いようで、自分の周りでもかなりそのような声を聞きます。
私は2020年から新規に農業ドローンの分野に参入し、2021年は春夏秋と約400ha、今年の2022年は春夏と約100ha(記事執筆時点)の散布を行いました。
今年は新規チームで新エリアでの開拓との流れだったので、面積は2021年比で大幅ダウンとなりました。
しかしながら2023年への足掛かりとしてかなりの手応えを感じております。
新規参入は誰にでも簡単なことではない!
農業従事者以外でドローンを始めたばかりの人やこれから始める人には農薬散布は簡単そうに見えるのか、飛ばせればなんとかなる!と思われるようです。
2020年に初めて農薬散布を見させて頂き、実際に手を動かした私の経験をお話ししますと、初日で自分には無理!と感じ、妻に私には向かないかも。。。と電話したのを覚えております。
何度も何度も農薬を希釈して、ドローンに注ぎ、バッテリーを交換する。この繰り返しで当時サラリーマンだった非力な私は夏の暑さと疲れでダウンしてしまいました。
ドローンと聞くと、とても最先端で綺麗に見える部分がフォーカスされてしまうのですが、実際には農薬散布機が空を飛んでいるにすぎません。
農薬を作ったり、作物の状態を見たり、あくまで今まで農家さんがやっていた作業を一部ドローンに置き換えてお仕事をしますという事です。
自力・独学は絶対に無理な世界
ドローンで写真や映像を撮ろうと思うと、自分で調べて自己流でもなんとか形にはなります。
Youtubeで映像の作り方とかを見たりすれば再現もできます。
※広告や映像素材という意味ではありません。
こと農薬散布(請負)に関しては独学では無理な世界で、出来たとしても遠回りしすぎてビジネスとして成り立ちません。
この農薬散布ビジネス(請負業者として)を行うに当たっての課題をいくつか挙げてみます。
1.人材集め
2.機材選定
3.技術確保
4.圃場確保
5.シーズンオフ
結論を言うと、「実際に散布している人から学び、その仲間に入れてもらう!」事が近道となります。
では課題それぞれについて少し詳細に記載したいと思います。
農薬散布ビジネス(請負散布)の課題
1.人材集め
ドローンで農薬散布を行う場合には実は1人では行うことが出来ません。
国土交通省航空局標準マニュアル(空中散布)参照して頂くと、基本は補助者を配置して行う事となっていて、補助者なしの場合は「立ち入り禁止区画」を設けなければなりません。
この立ち入り禁止区画の設置は請負散布業者として移動しながら幾つもの圃場に散布する事を考えると現実的ではありません。
例えば山に囲まれ周りにはアクセスする一般道路も少ない農家さんの自分の圃場というシチュエーションであれば現実的かもしれません。
となると確実に2人以上での体制が必要となります。
大きく役割でいくと
・パイロット
・補助員(ナビゲーターとか合図マンと言います)
・農薬、バッテリー係
理想は上記役割に合わせて3人ですが、小さな圃場で1日の量が多くない場合はパイロットが農薬・バッテリー係も兼務できますので2人となります。
さて自分以外のメンバーをどうするか?という事になります。
アルバイトで臨時雇い、または家族に手伝ってもらう。
方法はいくつかあると思います。
ここにいくつか落とし穴があって、実際に自分で本当の圃場で農薬散布をしてみると感じる事ができるのですが、知識量や段取り力が自分のレベルと違いすぎると(低い方に)自分にストレスがかかり、進捗も悪くなったり、最悪計算ミスや接触・墜落事故に繋がります。
大型の農業ドローンや農薬を使いますので、事故を起こすと取り返しがつかない事になります。
チーム員に全幅の信頼をおけないとギクシャクしてしまいます。
さて、あなたの周りから信頼できる仲間にできる人の顔が何人浮かんできたでしょうか?
2.機材選定
機材はドローンをメインに、それに付随するさまざまな機器まで含みます。
ざっと下に必要になりそうなものを記載します。
・ドローン、予備機含む
・充電器、バッテリー
・粒剤散布装置(オプションの場合)
・発電機
・車両
・無線機
・水タンク
・農薬希釈用ポリタンク
・じょうご
・はかり
・ジョッキ
・ほか
いかがでしょうか?
ドローンも高額ですが、移動運搬に使う車両も軽トラなのかバンなのか?人数は乗れるのか?
発電機はどれくらいのが必要で、車に乗るのか?
など、ドローンそのもの以外にも考えることは結構あります。
ドローンの事を少しお話しすると、散布する対象作物が何なのか?圃場の大きさはどれくらいが多いのか?などでもメーカーや機種選定が変わります。
そして予備機ですが、なかなか2機も用意できない!という方も多いかと思いますが、自分が請負散布中にトラブルで機体が使えなくなったらどうしますか?
散布を断りますか?
農薬散布は適期防除が基本ですので、機体壊れたので散布断ります!とお客様に言った時点で次回のお声がけは怪しくなる可能性もあります。
この辺は信頼関係がどの程度かにもよりますが。
予備機があればベストですが、付帯保険で予備機を用意できるものもありますので、そういった事の検討も必要です。
機材に伴い、ドローンの操縦認定や購入・準備資金も必要となります。
3.技術確保
どんな仕事でも技術の確保は必要なので当たり前ですが、お客様の要求に応えられる技術の確保が必要です。
大型な農業用ドローンですので、一歩間違えば大怪我、大事故になります。
人的な事故もそうですが、農薬の取扱いを間違えると農薬事故になります。
「今のドローンは自動でしょ?」と思っている人もいるかもしれませんが、機種によって全自動なのか半自動なのか使える機能が違いますし、そもそも圃場が自動操縦に適した場所になっているのか?という様々な要件があります。
ドローンが飛行中に異常を感じたら、手動操縦しなければなりませんし、そもそも手動でもきちんと散布できる技能が最低限必要です。
プロとして業務を行うのでしたらプロとしての技能を持ち合わせる事はどんな仕事でも同じです。
また、圃場の周辺状況をきちんと把握して安全に適切に農薬が作物に散布できる事が必要ですので、自動・手動にかかわらずお客様の要求をどうやったら満たせるか?を常に考えて計画し実行出来なくてはなりません。
パイロットのみならず、他のメンバーも同様に技術や知識が必要です。
4.圃場確保
人も機材も揃った、でも仕事が無い!では成り立ちませんので営業は必須ですね。
これは農薬散布に限った事ではありませんので、ここでは簡単に記載しますね。
農家さんが例えば20歳で農業を始めて、一般的な会社員のように60歳までやったと仮定します。
通常ですと年に1回に収穫を迎える作物であれば、人生の中で40回しかその作物を作らない事になります。
仕事と考えると「一生に40回しかやらない事」というのは非常に経験値が積み上がりにくい物事と思います。
その1回をあなたにお願いする理由と考えると簡単ではないのでは?と思います。
たまたま飛び込みで来た人に自分自身が何か仕事をお願いする事はありますか?
こういった事も考えなければなりません。
ただし、農家さんの口コミって非常に大きいもので、今年もかなり農家さんの紹介で担当圃場が広がっていきました。
自分達の業務を評価していただいて、良いと思って頂けると拡散していくものです。
本当にありがたい事だと感じます。
5.シーズンオフ
シーズンオフと書きましたが、シーズンオフに限らずにはなってしまいますが、1で書いた人材集めとつながります。
自分のチームに入ってくれる人はその時の期間限定でしょうか?それともあなたの会社の従業員でしょうか?
当たり前ですが農薬散布業務はその時期にしか仕事はありませんし、天候が悪ければスケジュールが変わります。
そして適期防除を実現するためにはシーズンは常に人材をキープしなければなりません。
きちんと日当を出せますか?
ここは揉めやすいデリケートな部分です。
チームリーダーとして、能力に合うお互いに納得した金額を提示してきちんとお支払いできますか?
さいごに
課題の解決法を述べれるほどの経験値は自分もまだまだです。
それでも既に2年以上取り組みを行なっておりますので、新規参入を検討されている方に私の経験はお役に立てるのかとは思います。
一番初めにやったことは、この業界で活躍されている方の話を実際に聞くという事です。
自分自身はドローンを始めた時は全く農業の知識はありませんでしたがその方のお話やセミナー、研修を通じて最低限の知識と技量、そして最大は仲間も見つける事が出来たことです。
もちろんタダで教えてくれる人はいませんので最低限の投資を行う覚悟を持ってください。
それが事業というものだと思います。
そして、教えてもらった事が正しいのか?どこでもそのやり方で良いのか?
最初は盲目的で良いと思いますが、必ず自分で検証をして正しくその場に合った方法を見つけて下さい。
場所、条件が違えば変わってくる要素もあると思います。
自分自身も今後ドローンパイロットとして活躍したい!などありましたら、私がインストラクターを行なっている「一般社団法人 ドローンスクール協会(JUIDA認定校)」(北海道札幌市)では、このような実務経験を踏まえての講習を行なっておりますのでお気軽にお問合せください。